新潟地方裁判所 平成8年(行ウ)5号 判決 1997年7月31日
新潟市太平三丁目二一番地八
原告
坂井清治
新潟市営所通二番町六九二番地五
被告
新潟税務署長 内藤仁士
右指定代理人
仁田良行
同
渡辺進
同
小田寛三
同
高橋隆一
同
松本隆治
同
仲村勝彰
主文
一 原告の主位的請求を棄却し、予備的請求に係る訴えを却下する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 主位的請求
被告が、平成八年二月二〇日付けでした原告の平成元年分ないし平成六年分の所得税の各更正処分のうち別紙一ないし六の各確定申告欄記載の金額を超える部分及び当該各年分に係る重加算税の不可決定処分並びに平成二年分ないし平成六年分の消費税の各決定処分及び当該各年分に係る重加算税の賦課決定処分は無効であることを確認する。
2 予備的請求
被告が、平成八年二月二〇日付けでした原告の平成元年分ないし平成六年分の所得税の各更正処分のうち別紙一ないし六の各確定申告欄記載の金額を超える部分及び当該各年分に係る重加算税の賦課決定処分並びに平成二年分ないし平成六年分の消費税の各決定処分及び当該各年分に係る重加算税の賦課決定処分を取り消す。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1(予備的請求についての本案前の答弁)
原告の予備的請求にかかる訴えを却下する。
2(本案についての答弁)
原告の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、平成元年分ないし平成六年分の所得税について、別紙一ないし六の確定申告欄記載のとおり被告に確定申告をした。
2 これに対し、被告は、平成八年二月二〇日、平成元年分ないし平成六年分の各所得税について、別紙一ないし六の更正・賦課決定欄記載のとおりの各更正処分及び当該各年度分に係る重加算税の賦課決定処分並びに平成二年分ないし平成六年分の消費税について、別紙七ないし一一の決定・賦課決定欄記載のとおりの各決定処分及び当該各年度分に係る重加算税の賦課決定処分(以下「本件各課税処分」という)をしたが、本件各課税処分の決定通知書にはいずれも処分理由の附記がなかった。
そこで、原告は、平成八年四月一九日付けの異議申立書を同月一五日に被告宛に発送し、右各処分に対して異議申立て(以下「本件異議申立て」という)をしたが、被告は、平成八年七月二九日付けでこれを棄却する旨の決定をした。
3 ところが、被告がした本件各課税処分には、以下の点で違法があり、これは重大かつ明白な瑕疵でもある。
(一) 被告がした本件各課税処分のうち、所得税については、原告の各確定申告に係る所得金額を超える部分は、いずれも原告が酒類販売の事業主体ではないのに事業主体であると誤認して原告の所得を過大に認定したものであり、消費税については、右誤認により過大に認定した所得に基づくものである。
(二) 被告は、原告に対し、本件各課税処分について、処分理由を記載した書面を交付していない。
4 よって、原告は、主位的に本件各課税処分のうち請求の趣旨記載のものが無効であることの確認を、予備的にその取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1及び2の事実は認める。
2 同3の事実は否認し、主張は争う。
三 予備的請求についての被告の本案前の主張
1 本件異議申立てに対し、平成八年七月二九日付けで棄却の決定がされ、同日、右異議決定書が原告に送達された。
2 原告は、国税通則法七七条二項に定められた審査請求期間である、右送達を受けた日の翌日であに同年七月三〇日から起算して一か月の期間最終日である同年八月二九日までに国税不服審判所長に対し、審査請求を行っていない。
3 したがって、予備的請求は、国税通則法一一五条一項本文に定める不服申立前置の要件を満たしておらず、不適法な訴えであって却下すべきである。
四 本案前の主張に対する認否
1 被告の主張事実1、2は、認める。
2 しかし、異議決定が国税通則法七五条三項中の「当該決定」にあたるとしても、同条項は、さらに審査請求を行わねばならないとする法的根拠とはならない
五 予備的請求についての抗弁
1 酒類取引事業主体について
被告は、原告の確定申告書に記載された飲食業の所得金額の算出過程が不明であったことなどから、本件各年度分の事業所得について調査することとし、被告係官らを原告宅に臨場させ、原告から事業内容等について聴取したところ、原告は、飲食店を営んでいるが全く儲かっていないこと、帳簿等は記載していないこと、パチンコや競馬での一か月約七〇万円の収入を生活費に充てていることなどを答えた。被告係官らが、原告に対し、再三にわたり帳簿の提示を求めたり、取引機構はどこかなどの質問を行ったのに対し、帳簿を提示せず、調査に非協力的な態度を示した。
そこで、被告は、原告の本件各課税処分に係る各年分の所得金額を確認するため、原告の取引銀行・取引先の反面調査を行った結果、原告が次のとおり、酒類取引を行い、事業収入を得ていることが判明したから、調査により把握した原告の収入金額と認められる金額を基礎として推計の方法により原告の本件各年度分の所得金額を別紙一ないし六のとおり算定し、消費税については、右収入金額を基礎として税額を別紙七ないし一一のとおり算定したものであり、所得の算定方法に違法はない。
(一) 原告は、有限会社油甚、株式会社千亀利酒販などの取引先との間で、「越乃寒梅」「久保田」等の清酒をヤマト運輸株式会社の運送便を利用して送付する方法で販売する取引行為を行っていた。
(二) 清酒の販売代金は、原告が開設し、取引先に対し代金の振込先として指定した原告名義の新潟信用金庫本店普通預金口座、同名義の株式会社大光銀行新潟支店普通預金口座、田中和美名義の株式会社第四銀行本店普通預金口座、井本勝名義の株式会社第四銀行沼垂支店普通預金口座及び林勇名義の株式会社新潟中央銀行本店普通預金口座に振込入金されていた。
(三) 原告名義以外の口座は、口座名義人の存在が確認できない仮名口座であり、右口座の印鑑届や払戻請求書の筆跡が原告の確定申告書の筆跡に酷似しており、原告自身が銀行に赴いて右口座から預金を払い出していた。
また、株式会社大光銀行新潟支店口座に入金された清酒き代金は、自動引き落としの方法により、信販会社への支払いにも充当されていた。
被告は、右調査の結果に基づき、本件酒類取引の事業主体は原告自身であって、その取引に係る所得金額は原告に帰属するものと認定した。
2 処分理由の附記の必要性について
更正又は決定通知書の記載事項について規定した国税通則法二八条二項、三項は、更正又は決定の理由を必要的記載事項としていないし、所得税法一五五条二項は、居住者の提出した青色申告書に係る更正をする場合についてのみ、更正通知書にその更正の理由を附記しなければならない旨規定しているから、青色申告書以外の申告書(以下「白色申告書」という)に係る更正又は決定の通知書については右のような規定はない。また、消費税については、そもそも消費税法に更正又は決定の理由を通知書に記載しなければならない旨の規定は存在しない。そうすると、白色申告書に係る更正又は決定通知書及び消費税の決定通知書にはその更正等の理由を附記する必要はないというべきであるところ、本件において、原告は、青色申告書を提出した居住者にあたらないから、本件各課税処分に係る各通知書に処分理由の附記がないことをもって、右処分が違法となることはない。
六 抗弁に対する認否
1 抗弁1の事実は否認する。
原告は、株式会社千亀利酒販の従業員として、酒類の販売・発送の手続を行ったにすぎず、酒類取引の事業主体ではない。
2 同2の主張は争う。
第三証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録のとおりであるから、これらの各記載を引用する。
理由
一 請求原因1および2の事実(本件課税処分の経緯等)は当事者間に争いがない。
二 主位的請求について
1 酒類取引事業主体について
(一) 括弧内記載の証拠(枝番のあるものは枝番共)及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。
(1) 原告は、昭和六三年一月ころから平成六年一二月ころまでの間、大阪府貝塚市の有限会社油甚(代表取締役酉井祥二。以下「油甚」という)、岐阜市のふみや商店(河野義文)などを取引先とする、「越乃寒梅」、「久保田」などの銘柄の清酒の販売について、多数回にわたって買受注文の受付け、商品の配送手続、代金受取り等を行っており、平成三、四年には、大阪府岸和田市の株式会社千亀利酒販(代表取締役的場美恵子、平成七年一一月二五日以降は有限会社に組織変更。以下「千亀利酒販」という)との間の酒類取引にも同様に関与していた(乙八ないし二〇、三六ないし三八)。
(2) 右取引に係る酒の代金は、原告によって開設され、原告が取引先に対し代金の振込先として指定した原告名義の株式会社新潟信用金庫本店普通預金口座(平成五年三月三〇日に同信用金庫物見山支店普通預金口座に移管された)、同名義の株式会社大光銀行新潟支店普通預金口座、田中和美名義の株式会社第四銀行本店普通預金口座、井本勝名義の株式会社第四銀行沼垂支店普通預金口座及び林勇名義の株式会社新潟中央銀行本店普通預金口座等に取引先から振込入金されていた(甲二一、乙二ないし二〇、三二、原告)。
(3) 原告は、右各取引に係る「越乃寒梅」、「久保田」等の清酒の送付をヤマト運輸株式会社に依頼していたが、同社が、平成六年七月二〇日、原告の依頼によって清酒「久保田万寿」八本を油甚代表取締役である酉井祥二宛に配送中、破損させた際にも、ヤマト運輸株式会社に指示し、同年八月一〇日、原告名義の前記新潟信用金庫物見山支店普通預金口座に弁償金六万四〇〇〇円(販売価格一本八〇〇〇円、八本分)を振込入金させた(乙三の2、二一ないし三〇、原告)。
(4) (2)の各口座のうち、原告名義の口座からは、原告の保険料、カードローンなどの出金がなされており、同口座内の現金は原告が個人的に費消していたのであり、その他の各口座からも原告が出金を行っていた(乙二の1、三の2、四の4、三四、原告)。
(二) 原告は、本件酒類取引の事業主体は、原告ではなく、千亀利酒販であり、原告は同社の従業員として、本件酒類の販売・発送の手続を行ったにすぎないと主張するとともに、その旨供述(甲二一、原告)し、その根拠として、原告が同社の従業員と認められた仲裁判断(甲一の2)、同社作成の原告の所得税源泉徴収簿兼賃金台帳(甲二二)、事業所として同社の記載がある大阪府発行の原告を被保険者とする健康保険被保険者証(甲二三)、同社からの給与取得を前提とする原告作成の所得税確定申告書(甲二五)などを挙げる。
しかしながら、甲一の2(仲裁判断書)には、原告と千亀利酒販との間で、原告が昭和六三年三月から同社の新潟県駐在の営業担当従業員として一か月七万円の給料の支払いを受ける約定で酒類取引等の仕事を行っていたとされているが、原告は、(一)認定のように、それより前から油甚あるいはふみや商店との間の酒類取引に関与しており、原告が開設した前記口座には、右酒類取引に係る代金が振り込まれているのであるから、仲裁判断書に記載された千亀利酒販の従業員となる前から酒類取引を行っていたことは明らかであるところ、この点の合理的説明がない。
また、そもそも本件仲裁判断の前提となる仲裁契約は、被告係官らが原告に対して本件酒類取引についての質問をするため原告宅へ臨場した直後に締結されたものであり、仲裁判断自体も、相手方である千亀利酒販が期日に出席せず、答弁書の提出もしなかったことから、当事者間に争いがないものとしてされたものであるから(甲一、乙三九)、右仲裁判断の内容は俄に措信することはできない。
原告が主張するように、千亀利酒販が事業主体として本件酒類取引を行っていたとすれば、同社以外の取引先からの振込入金は、同社の売上代金であって、これが原告名義ないし原告が管理する預金口座に振込入金されること自体もまた不自然である。さらに、原告の供述によると、原告は、取引先から受け取った金は全て千亀利酒販に渡していながら、同社から支払われる約束であった月七万円の給料ないしアルバイト料が初回以外は支払われないまま、いわば「ただ働き」をしていたことになるが、原告は、本人尋問において、その理由を尋ねられると、何度となく同社代表取締役などに言ったが相手にしてもらえなかった旨の不自然かつ曖昧な弁解を繰り返すのみで、その供述は到底信用できず、原告が根拠とする、所得税源泉徴収簿兼賃金台帳(甲二二)については、同社によって源泉徴収がされているという記載のないものであること、健康保険被保険者証(甲二三)については、平成九年二月になってはじめて取得されたものであり、本件仲裁判断によって、同社の従業員であるとされた以後も、すぐには切り替えがされておらず、これらの点について、原告から合理的な説明がなされていないこと、所得税の確定申告書(甲二五)については、税務署の受領印のある控えではないことから、いずれも到底信用することは出来ない。
(三) したがって、本件酒類取引の事業主体を原告としてされた本件各課税処分に無効事由があると認めることはできない。
2 処分理由の附記の必要性について
国税通則法二四条から二六条までの規定による更正又は決定の理由は、更正又は決定通知書の一般的記載事項とはされておらず(国税通則法二八条二項、三項)、所得税法一五五条二項は、所得税について、青色申告書を提出した居住者につき、その提出した青色申告書に係る年分の所得金額等の更正をする場合についてのみ、更正通知書にその更正の理由を附記しなければならない旨規定しているから、白色申告書に係る更正通知書等に処分理由を記載する必要はないというべきであり、また、消費税法には、決定通知書に理由を附記すべき旨を定めた規定は存しないところ、乙一の一ないし6によると、原告は青色申告書を提出した居住者ではなく、白色申告書を提出した者であると認められるから、本件各課税処分等に係る各通知書に処分理由の附記がないとしても、本件各課税処分を無効とするものではない。
したがって、理由を附記した処分通知書が交付されていないことを無効原因とする原告の請求は理由がない。
三 予備的請求について
本件異議申立てに対し、平成八年七月二九日付けで棄却決定がされ、同日、右異議決定書が原告に送達されたこと、原告が国税通則法七七条二項に定められた審査請求期間である、右送達を受けた日の翌日である同年七月三〇日から起算して一か月の期間最終日である同年八月二九日までに国税不服審判所長に対し、審査請求を行っていないことは当事者間に争いがない。そうすると、本件各課税処分の取消しを求める予備的請求は、国税通則法一一五条一項本文に定める不服申立前置の要件を満たしておらず、不適法な訴えであり、却下を免れない。
原告は、同法七五条三項の解釈として、異議申立ての後、さらに国税不服審判所長に対し審査請求しなければならないとはいえないとするが、独自の見解であって採用することはできない。
四 よって、原告の主位的請求は理由がないから棄却し、予備的請求に係る訴えは不適法であるから却下し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松田清 裁判官 野島香苗 裁判官 野島久美子)
別紙一
本件課税処分の経緯(所得税・平成元年分)
<省略>
別紙二
本件課税処分の経緯(所得税・平成二年分)
<省略>
別紙三
本件課税処分の経緯(所得税・平成三年分)
<省略>
別紙四
本件課税処分の経緯(所得税・平成四年分)
<省略>
別紙五
本件課税処分の経緯(所得税・平成五年分)
<省略>
別紙六
本件課税処分の経緯(所得税・平成六年分)
<省略>
別紙七
本件課税処分の経緯(消費税・平成二年分)
<省略>
別紙八
本件課税処分の経緯(消費税・平成三年分)
<省略>
別紙九
本件課税処分の経緯(消費税・平成四年分)
<省略>
別紙一〇
本件課税処分の経緯(消費税・平成五年分)
<省略>
別紙一一
本件課税処分の経緯(消費税・平成六年分)
<省略>